産女のゆうれい(長崎の昔ばなし第一集より)

そのむかし、麹屋町に一軒のあめ屋がありました。

ある夏の夜のこと、表戸をトントンたたくものがありました。
あめ屋の主人が戸をソッとあけると、ゆかたがけの若い女が、青白い顔をして、力の無い声で、

 「夜ぶん、まことにすみません。あめをわけてください」と、一文さし出したのです。

 あめ屋の主人は、ふるえながら、あめを手わたすと、女は無言で立ちさって行きました。

 このふしぎんあ女は、つぎの日も、そのつぎの日も、きまって夜おそくやってきました。

 さて、ある晩、あめ屋の主人は、このあやしげな女のあとをつけて行くことにしました。

 麹屋町をぬけて、光源寺の門のまえまでくると、女の姿が門の中へ消えてしまいました。

 あたりはぶ気味に静まりかえっています。

 にわかに暗やみから、

 「オギャー、オギャー」と、

赤ん坊の泣き声がひびいてきました。

 「た、たすけてーーーーー」と、あめ屋の主人は光源寺の本堂にかけこみ、お尚さんを起こしました。さっそく、お尚さんは、声のする墓を掘りおこすと、先日埋めたばかりの女の死体から、赤ん坊がうまれていたのです。

 赤ん坊を抱きあげてみると、あめ屋の主人が女に売ったあめをしゃぶっているではありませんか。あの女は、この子の母親のゆうれいだったのです。

 赤ん坊はお尚さんに引きとられ、母親の供養もすませたある晩のこと、

 「ありがとうございました。子どもを助けていただいたお礼に、あなたさまの願いをなんでもかなえてあげましょう」と、あめ屋の主人のまくらもとに、女のゆうれいがあらわれました。

 そのころ、麹屋町かいわいは、水不足でこまっていましたので、あめ屋の主人は、

 「水ば出んけん、水ばほしか」と、

たのみました。女のゆうれいは静にうなずいて、

 「女もののクシが落ちているところを掘ってください」と、

急に消えてしまいました。

 のちのこと、あめ屋の主人が麹屋町で一本の赤いクシを拾いました。そこを掘りはじめると、にわかに水がわき出したのです。町の人は、たいそう喜んだということです。